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vol.02 お酒を注ぐ【秘訣①:重みを感じる】

こんにちは。日本舞踊家の宇津木安来です。
今回は、「お酒を注ぐ」という振りの一つ目の秘訣、重みを感じる。ということについてお話しします。

重みを感じる、とはどういうことでしょうか。
「重み」に対して、まず「重さ」という言葉を定義します。「重さ」というのは体重計やはかりで測ったときに表される数字、重量です。これに対して「重み」というのは、物を持ったときに”感じる重さ”です。

例えば、自分の体重というのは一定ですが、鉛のように重く感じるときや、羽のように軽く感じるときがありますよね。また、お子さまがいらっしゃる方は、起きてあちこち動き回っている子供を抱き上げるのと、ぐっすりと寝ていてグニャグニャになっている子供を抱き上げるのとでは、重みの違いを感じるのではないかと思います。野球やゴルフ、テニスなどのスポーツをされている方でも、重量としては同じ重さであるはずのバットやシャフト、ラケットなどを、ある日は重く感じたり、ある日は軽く感じた経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

このように、実際の重さに対して、重みというのは変化します。これを日本舞踊では積極的に技術化します。同じ重さのものでも、自分が感じている重みが変わると、お客さまからも不思議と変わって見えるのです。

今回は、お扇子を使って、お酒を注ぐという振りを表現しますが、お扇子というのは、お酒が入った徳利よりも、重さ、つまり重量でいうと“軽い”ですよね。そのお扇子が、あたかもお酒が入った徳利に見えるようにするためには、実際の重さであるお扇子の重さ以上の重みを作り出し、それを感じながら表現する必要があるのです。お扇子を持ったときに、実際にお酒の入った徳利の重みを想像し、その重みを作りだし、その重みを感じるようにしながら持つと、不思議とお客さまから見た時に、表現したかった重みを感じていただけるということに繋がります。

また、“より重みを繊細に感じて物を持つ”ということは、日常動作をより美しく見せる秘訣でもあります。これは、モノの重みをより繊細に感じ分けることができる身体の感度、感性を持つことで、身体がより繊細に出力する筋肉を選択するようになり、不必要な筋肉の脱力へとつながるため、無駄な力が抜けた、美しく洗練された動きを生み出すことができるようになるからです。
ですから日本舞踊では、「“重さ”を“重み”に変える」、そして、「その重みを感じる」、という技術が必要とされます。

また人間は、ひとかたまりのものよりも、パーツに分かれているものの方がより重く感じるものなので、固体よりも液体の方が、同じ重さでも重く感じるものです。そこで、お酒を注ぐ、という振りをうまくできるようにするためには、固体である徳利の重み以上に、その中身であるお酒の重みを感じる、ということを意識すると、より重みをさりげなく感じながら注ぐことができます。

今回は、一つ目の秘訣、重みを感じる。でした。次回は、二つ目の秘訣、重心を感じる。です。
どうぞよろしくお願いします。

 

(資料1:三つの秘訣)

 

[連載一覧]宇津木安来・日本舞踊の動く辞典
00 はじめに
01 お酒を注ぐ【はじめに】
・02 お酒を注ぐ【秘訣①:重みを感じる】
03 お酒を注ぐ【秘訣②:重心を感じる】