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vol.03 お酒を注ぐ【秘訣②:重心を感じる】

こんにちは。日本舞踊家の宇津木安来です。
今回は、「お酒を注ぐ」という振りの二つ目の秘訣、重心を感じる。ということについてお話し致します。

重心を感じる、とはどういうことでしょうか。
例えば、「お酒を注ぐ」という振りの中でどのように重心を感じていくのか、順を追ってお話し致します。前回お話しした“重み”と同じように、実際のお扇子の重心とは別に、お酒の入ったとっくりを想像し、その重心の意識を作った上で表現する、ということが大事になってまいります。

まず最初に、お酒が入ったとっくりが置いてある状態の時、重心は一つです。厳密に言うと、とっくりの重心、液体の重心、全体の重心、の三つの重心が縦に重なって一致している状態です。ただし、この縦に重なった三つの重心を感じようとするととても難しいので、実際にはあまり深く考えず、さりげなく、そうなんだな〜ということで大丈夫です。

次に、とっくりを持ち上げて、お酒がどの位入っているかなぁと揺すると、この三つの重心が重なり合って一致している状態から、分離してずれ動くことになります。このとき、実際にはとっくりの重心に対して液体の重心と全体の重心が分離してずれ動きますが、そこまで厳密に意識を作り出して行うのは大変ですので、重なっていた三つの重心を結んだラインに“対して”、液体の重心が、分離してずれ動いている、のを感じるようにします。

このとき重要なのは、「対して」という部分です。なんの基準もない状態で重心だけが動いていても、実はずれ動く感じは生まれませんし、その重心が空間上のどの位置にあるのかがわからなくなってしまいます。ある基準(この場合はライン)に対して、右に動く、左に動く、という意識を持つことで、一致した状態から分離する状態も感じることができますし、自分が感じて表現しなければならない重心が今、空間上のどこに位置しているのかを正確に認識できるため、お扇子一本で表現することができるようになります。

最後に、お酒をお相手の盃に注ぐ際には、このラインよりも少し下をお酒が重みとお酒特有の粘度を持ってゆっくりと通っていき、とっくりの口からお酒が離れ、盃に注がれると、今度は注いでいるお酒の先々にも重みと重心が生まれるため、お酒がとっくりの口から離れた瞬間から、そのことも感じるようにしながら注いでいきます。そのことで、はなれが引き立ち、素敵に見えるようになります。

今回は、二つ目の秘訣、重心を感じる。でした。次回は、三つ目の秘訣、胸を落とす。です。
どうぞよろしくお願い致します。

 

(資料1:三つの秘訣)

 

[連載一覧]宇津木安来・日本舞踊の動く辞典
00 はじめに
01 お酒を注ぐ【はじめに】
02 お酒を注ぐ【秘訣①:重みを感じる】
・03 お酒を注ぐ【秘訣②:重心を感じる】
04 お酒を注ぐ【秘訣③:胸を落とす】