第百七十四回本科お稽古 化粧の日本史

日時:2017年8月22日(火) P.M.7:00開塾
場所:道往寺

本日は化粧文化研究家の山村博美先生をお招きしてのお稽古です。

化粧はその日のうちに消えゆくもの。化粧品も時代を超えて残ることは稀である。よって「化粧」の学問としての研究は、長い間なされなかった。文学作品や絵画、芸能、教育、風俗習慣など幅広い分野から、関連するエピソードを拾い集め、古代から現在までのお化粧の通史をまとめあげた初の化粧文化研究家の先生であります。

さらに、江戸時代から続く老舗の紅屋・伊勢半本店より阿部先生をお招きして、江戸の町娘の化粧の再現を実演いただきました。

あぶら取り紙ならぬ「和紙」を使用しての「おしろい」ぬぐい。
和紙が今でいうティッシュの様に使用できるたのは、江戸の古紙再生率が高かかったからだそうです。
高度なリサイクル社会の江戸を垣間見れます。

 

【白・赤・黒の三色】

大陸からもたらされた化粧文化が日本独自の化粧へと変化したのは平安時代。西洋の化粧が日本に入ってくるまで、千年以上にわたって日本の伝統化粧の基礎となったが白・赤・黒の三色であった。

【化粧の起源】

中国の史書『魏志』倭人伝、によると、3世紀ごろ、日本人は顔や体に赤い顔料を塗る「赤の化粧」がおこなっていた。
赤は太陽の色であり、赤々と燃える火や、したたり落ちる血液を連想させる象徴的な色である。魔よけの意味があったといわれている。

同書に「黒の化粧」のお歯黒の風習を連想させる記述もある。

現代に通じるメークの基礎は、飛鳥時6世紀後半にできたといわれている。
遣隋使が派遣され、大陸から紅や白粉(おしろい)などが輸入された。

当時の白粉は鉛を酢で蒸して作られていた。日本書紀(692年)に奈良の元興寺の僧が持統天皇に鉛白粉を作って、献上したところ、天皇がその白粉をほめて、褒美を与えたとの記述がみられる。これが「白の化粧」の文献に残るもっとも古い製造記録である。

【お歯黒とは】

お歯黒は”鉄漿(かね)”とも表される。
原料は①五倍子粉(ふしのこ)と②お歯黒水(鉄漿水)の二つである。

①五倍子粉(ふしのこ)
ウルシ科のヌルデの若芽や若葉にできた虫こぶを採取して、乾燥させたものでタンニンを多く含む。

②お歯黒水(鉄漿水)
自家製の酢酸第一鉄を主成分とする液体のこと。
米のとぎ汁に酢、茶汁、古鉄、酒などを加えて密封し、二、三か月置いて発酵させて作成される。

①と②を混ぜると、タンニン第二鉄溶液という成分ができる。
お歯黒の原料は簡単にいうと「鉄と酢」である。

お歯黒には虫歯や歯周病予防効果があったそう。

江戸時代の既婚女性の象徴であったお歯黒。
実は鎌倉時代から安土桃山時代には公家や武士もお歯黒をしていた記録が残っている。
平安時代中期に女性がしていた化粧は、後期になると公家の男性にも広まった。
いつしか高い身分・権威の象徴となったのである。

【玉虫色に光る紅・笹紅】
紅の原料は紅花である。

古墳時代は水銀朱やベンガラ(酸化鉄)など赤色顔料として使用されていた。
紅花の栽培は平安時代では確認されており、染料や化粧料として使用されていたそうだ。
紅花から抽出される赤色色素はなんと1%しかなく、その他99%は黄色だ。
なのでこの抽出技術は製造効率を左右する為、各企業門外不出。紅は金と同じくらい高価で貴重なもであった。
紅花の紅は、濃く塗り重ねると緑色(玉虫色)の光沢がでる。

↓紅猪口に塗られた紅。左は塗りたての為、赤い。濃く塗って乾くと右のように玉虫色に光る。

江戸時代、紅がなくなると、空になった自身の紅猪口を紅屋に持参した。
店先にて職人が、持ち込まれた紅猪口に塗布する方式であった。
この紅の塗布作業、紅の最終調整の仕事も兼ね、高度な職人技が必要となる。
今現在、この職人は日本(世界)に2人しかおらず、
紅の抽出と同様、残して行きたい技である。

浮世絵などで、遊女の下唇が緑色に描かれているのは、贅沢に紅をさした証。
上下両唇を濃くするのは品がないといわれ、下唇には濃く、上唇には薄くつけるのが基本であった。

眉の下地にも紅をのせ、その上から墨をのせる。
現在でも、赤いアイブロー下地が販売されているが、江戸時代の女性も同様、眉を明るくみせるテクニックとしていた。

 

最後は塾生の皆様に、紅花の紅さし体験をしていただきました。

紅花の紅は現代の口紅とは異なり、その人にあった自然な発色をしてくれます。
塾生の方、皆さんそれぞれことなる発色で、とても明るいお顔になったのが印象的でした。
この紅は全国で唯一、伊勢半本店で製造販売をしており、現代でももちろん使用できます。
必ず似合う色で発色してくれるので、口紅を購入する際の指標になるそうです。
水性なので、クラスにつくこともなく会食時など特にオススメです。
江戸時代の女性同様、これ一つで、口紅にも頬紅にも眉にものせられます。

今回実演して下さった、伊勢半本店は南青山にミュージアムがございます。ぜひ足を運んでみてください。紅ミュージアム
山村先生、阿部先生、ありがとうございました。