竹久夢二「黒船屋」を解く 木暮享先生をお招きして

7月26日の和塾・本科お稽古は、竹久夢二伊香保記念館の木暮享館長のお稽古でした。
長年、毎日毎日、夢二の作品を見続けてこられた木暮館長。
人生においてその一歩は、我々と同じ一歩であることは間違いないのですが、しっかりと瞼を開き、自らもとめれば、こんなにも多くの収穫を得ることができるのだ。そんなことを示してくださった。人生の大先輩です。

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和塾本科お稽古『竹久夢二』
日時:2014年7月26日(土)15時〜
講師:竹久夢二伊香保記念館館長・木暮享先生
会場:渋谷・数寄屋金田中
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木暮先生は、お稽古の間、何度も「これは私が感じ、私が考えたことです。だから、決して鵜呑みにしないでください」と繰り返された。一見謙虚にみえる言葉の裏には「自分で感じよ、考えよ、それこそが本当に大事な人生の一歩なんですから」というメッセージが込められている。

学説とか、哲学というと、その一歩は、なにか、巨人の一歩のように感じますが、その一歩一歩は、だれでもできるはずのこと。でも歩き通すことは難しい。だからこそ木暮さんの一歩は、まるで、野球選手のイチローの一歩と同じだと感じるのです。

たとえば、西洋の文化と日本の文化の違いについて、木暮さんはこう表現されます。

「西洋は突き刺す文化であり、日本は寄り添う文化」であると。

フォークをみてごらんなさい、突き刺すでしょう。一方で、箸はどうですか?食べ物に寄り添うんです。あるいは椅子やベッドはどうでしょう、床に突き刺さっている。でも、座布団や布団はそうじゃない。大地に寄り添っていますでしょ。
あるいは、絵画の展示の仕方に関して、西洋絵画はどうでしょう?物質として壁から突き出ていますね。でも、日本の掛け軸はどうか? 壁によりそっている。

言われてみれば簡単なことのようですが、日々の気づきの積み重ねが下地にあるからこそ、それを聞く我々もなるほどと素直に聞くことができる。でもこれは決して簡単なことではないのです。

お稽古のメインイベントは、夢二の「黒船屋」をどう読み解くかでした。木暮さんは、まず、芸術作品の価値を決定づける3つの要素を定義づけられ「黒船屋」の魅力について、この作品がなぜ最高傑作であるのかを謎ときのように一つ一つ明らかにしてくださいました。夢二が何を描こうとしたのか、そこにある思い、それを描くために選んだ画題、そして実際に描ききる力。それら3つがどれも突出しているからこそ最高傑作なのであると。そうするうちにだんだんと「黒船屋」が過去から現在に、現在から未来につながって、壮大な物語として見えてくるではありませんか。

たとえば「なぜ、この絵は、女性と猫と箱の3つの画題だけから構成されているのか?特に、なぜ箱を画題の一つとして選んだのか?それには様々な理由があります」「なぜ、箱なんでしょう、女性が座るのは椅子でいいじゃないか?」その理由が一つ一つ明らかにされるうちに、いままで、見えていなかったものが見えてくるようになりました。箱という画材を通して、夢二の画家としての技術力の高さについて、形、色、配置、すべて、計算しつくされているということがわかってきました。いろいろなことがわかるにつれて、瞬間、夢二の思いがどっと押し寄せてき、胸から込みあがる感動を抑えられませんでした。まさに最高傑作であると、塾生みんなが納得したのです。

木暮さん、素晴らしいお稽古を、本当にありがとうございました。

お稽古後に、サインをいただきました。塾生それぞれに、木暮さんが感じられたことばを書いてくださいました。僕には「そこにものがあるから見えるのではない」と書いてくださいました。
一歩一歩、瞼を見開いて、歩いていきたいと思います。
80才になったとき、木暮さんのような素敵な男性になれたらいいな。