ー無外流居合兵道ー塩崎月心先生 第八十回お稽古

日時:2010年11月9日(火) P.M.7:00開塾
場所:吹毛会本部道場

Text by nn
今回は、「居合い」がテーマ。男性中心の会です。
日本橋三越前にある無外流吹毛会本部道場へお伺いしいました。
有名な柳生新陰流、神道無念流など、数多ある居合いの流派の中でも、
大山倍達をして、「無外流ほど実戦的な居合はない」といわしめたのが、この流派。
お稽古をつけて頂いたのは、塩崎心月先生。

塩崎心月生生

胴着の着方から礼の仕方、構え方から切り方まで、一通りお教え頂き、

最後には、なんと塾生全員、真剣を使って巻き藁を切りました。
一生に一回あるかないかの体験です。実際のお稽古動画もあげました。
塾生の奮闘、お楽しみください。

そもそも「居合い」とは何か。頂いたテキストより、転載させていただきます。

居合いとは、「立ち会いに対する言葉であり、敵の不意の攻撃に対して一瞬をおかず抜刀し敵に勝つ、鞘離れの一刀で勝負を決める剣技」「敵と争わず、傷つけることなく活かすことが奥義の一つだが、やむなく抜刀したときは、一撃で敵をたおさなければならない。」

そして、居合修行の目的とは「心身の鍛錬」であるとあります。
「敵を素早く、一撃のうちに倒すための修練を通じて、術の取得で終わることなく、
居合道としての心法(心の修練)の修得が最終の目的です」とあります。

かつては日常としてあった、生きるか死ぬかの瀬戸際。その中を生きていた剣豪達の心身の錬磨具合は想像もつきませんが、運動から離れて久しい、今日この頃、居合いを通して心と体の両面から鍛錬の入口に立ってみたいと思います。

舞台は、吹毛会館本部。周りを身鏡で覆われた、張りつめた雰囲気のお稽古場にスーツ姿で現れた塾生は、まずは胴着に着替えるところからスタートです。
上着と袴を着て、帯を締めると自然と背筋が伸びてきます。

腰に刀をさす前に、まずは礼の仕方から。

塩崎先生によると、礼法を分類すると3種類にわけられるそうです。
一つは、自然界の法則(例えば陰陽)に基づいたもの。
もう一つは、相手を敬うためのもの。
そして最後は、相手に隙をみせないためのもの。
無外流の礼法は、その3つ目に分類できるとのこと。
ちなみに、以前行った小笠原流の礼法は、一番と二番の混合でしょうか。

無外流では、座った状態でも、常に一瞬で刀を抜けるようにお辞儀をします。
頭を下げるとき、腰は折りますが、相手から顔をそらしません。
刀もすぐに抜けるように、右利きの人は自分の左側へ置きます。
片時も隙をみせてはいけません。
「敵の不意の攻撃に対して一瞬をおかず抜刀し敵に勝つ、鞘離れの一刀で勝負を決める」こと。実践派の居合いでは、どんなときもそれが中心にあります。

「肉を切らせて骨を断つ」の言葉通り、あわよくば骨をばっさりと断っていた刀ですが。

作りは非常にシンプルです。
実際に刀身を手に取り、刃紋を拝見させていただきました。
昔のお侍さんが必死になって、名刀をもとめたのも理解できます。
武器としてだけではなく、工芸品としても大変美しい。

その日本刀。ものすごく繊細で、数人切ると刃こぼれを起こし、刀身が曲がってしまい使い物にならなくなります。
さらには、刃と刃で打ち合うとすぐにボロボロ、簡単に折れてしまいます。
当時としても貴重な刀。
侍は斬り合いになった時、そのような刀でどう受け捌いていたのでしょうか。

「鎬(しのぎ)を削る」という言葉があります。拮抗した能力をぶつけ合い、激しく優劣を競う意味ですが、その鎬とは刀身と平行に盛り上がった刃のサイドの部分のこと。
どうやらその鎬で、相手の斬激を受け落としたりしていたそうです。
つまり、西洋でいう盾が、刀そのものであるということです。
どうりで、盾をもったお侍さんがいない訳です。
二刀流というのも、その特性からうまれたとのこと。
かつては、この鎬が生死の境をわけていた。
実際に、刀と刀で鎬を削ったときは、さぞ痺れる展開だったでしょう。

また、刀は純粋な鉄でできているので、手入れをしないとすぐにさびてしまします。
長い間、刀の手入れをしないで錆びてしまうことは、いざというときに、そのまま本人の生死に関わってきます。自分自身で蒔いた種から、どうしようもない状態になってしまうことを「身から出た錆」といいますが、これも刀からきた言葉です。

刀から来た言葉は、他にも「反りが合わない」「元の鞘におさまる」「付け焼き刃」「つばぜり合い」など様々ありますので、ご興味のあるかたは調べてみてください。
刀にまつわる言葉一覧

お話のあとは、実践です。
実際に刀を腰に差し、抜き方と納め方、切り方を学びました。
今回は、二尺三寸の刀。大体70センチぐらいです。
その長さ、ただ抜くだけでも大変です。一瞬の内に、抜刀し、切り去るのはいかに大変か、実感しました。

さらに難しいのが納め方。抜いた刀の納めどころまできちっと決めて、初めていっぱしの人間です、しかしそれが難しい。
鯉口(鞘の口の部分)を手でかぶせるように横から握り、刀の刃を入れる隙間を親指と人差しで作ります。そして刀の峰(刃の逆側)をその親指と人差し指の根っこの部分に置き、前方に引きながら、切っ先が隙間のあたりに来たときに、そのままそこから鞘へ納めます。

慣れるまで、手を切りそうになって怖いです。

そして、切り方。まず正面打ちから。
刀は、まっすぐに振ることができれば、ビュッといった音がするようにできています。
その音がなかなかでない。
こんなに真剣に真剣を振ったことはありません。

刀を振り下ろした際は、切っ先を相手に向けた状態で止めます。
それは、斬激を外した際、相手に突っ込んでこられるのを防ぐためです。
しかし、振り下ろした刀をその状態で止めるのも大変です。
その後、袈裟切り、横一文字切りを習い、素振り。

そして、いよいよ巻き藁の試し切りです。
ちなみに、右上からの袈裟切りの場合、剣道では左足で踏み込んで竹刀を振り下ろしますが、真剣では足を切ってしまう危険があるため、右足で踏み込んで振り下ろします。
以下、実際の動画です。

 

ヒヤヒヤしながらも、塾生、全員良く切れました。
普段は切れないことも多いとのこと。
全員、ばっさりいけました。
怖いです。

そして無事、入門編の合格証書を授与。
やはり証書のような形で頂けるとうれしいですね。
やったかいがあります。

途中で、先生方の形(かた)も拝見させていただきました。
無駄のない動きが、静かで力強く。息が詰まるような美しさです。
こちらもご覧下さい。

無外流の吹毛会は、財団法人無外流に所属する団体の中で、最も長い歴史をもち、最大の会員数で構成されている団体とのこと。
居合い以外にも、短杖、鎖がま、十手などの古武術のお稽古もしております。
東京、神奈川、千葉等、多数ある稽古場は、月会費を払えば、月に何度でも、どのお稽古場でも使用できるとのこと。
心身の鍛錬の入口として、居合いはいかがでしょうか。
居合・剣術/財団法人無外流・吹毛会