ー江戸文字~タノシイ書道ー橘右之吉先生 第四回混合クラス

日時:2009年10月21日(水) P.M.7:00開塾
場所:六本木 はん居

Text by miyaben
今回の講師は、江戸文字の橘右之吉先生。
江戸文字とは、芝居小屋や寄席の看板などでおなじみの太く黒々とした文字です。
見ているだけで、なんとなく華やかでうきうきするものです。

右之吉先生のよる実技「和」の字

 

同じく「塾」の字

 

芝居や寄席、火消しや相撲など、それぞれの世界にふさわしい文字が出来たのは江戸時代。
芝居の世界では中村座の岡崎屋勘六という人が有名な「勘亭流」を作りました。
右之吉先生が継承しているのは、寄席文字の「橘流」です。先生は、国立演芸場の看板や「まくり」(舞台袖に置かれる落語家の名前を記した紙)をお書きになっています。
黒々とみっちりと書くのは、お客がいっぱい入ることを意味し、右肩上がりはますますの繁盛を願っています。

さて、運筆のお手本を見せていただきました。
筆は、歌舞伎の隈取りをするためのもので、太くて短い毛が特徴です。
手のひらの肉をしっかりと紙につけ、エンピツと同じ角度で筆を動かします。

まず書いていただいたのは、「笑点」の二文字。

「笑」の字の運筆がこれ。

 

「点」の字はこう書く。

 

日本テレビの「笑点」の文字は、先生の師匠である橘右近氏が書いたものだそうです。
ある塾生、「笑」の字に点があるのを発見。
「昔は『笑』は竹の下に一匹の犬がいる、と覚えました。今の字と違いますね。『小犬の竹のぼり』。これは『鯉の滝のぼり』のシャレ。歌でいえば本歌取りになっているシャレを真洒落といいます。裏と表がある文化です。ええっと、だから……『洗濯機フライドチキン』みたいのは、真洒落でなくて、ダジャレ」
先生、筆に淀みもないし、お話にも淀みがありません。

でも、掃除機に白状すると、今度「洗濯機」のダジャレを使わせてもらおうと思いました。

子どものころ、文字のかすれを後から直したりすると、「提灯屋」と怒られたものです。
字の迷いと精神性は一緒にされ、子ども心にひどく傷ついたものです。
でも橘流はそんなことに頓着しません。
「直し放題、出来上がりが良ければいい」
きっぱりです。自由です。
そういいながら、先生は躊躇することなく細い線は太くして、トメが整わなければ何度も描き足します。
いいなあ。

さていよいよ実践です。

塾生たちが一番戸惑ったのは、右から左へのハライです。
橘流には、そもそも右から左への運筆がありません。
なぜなら右利きの人がこのハライをすると、「手が汚れ、紙が汚れる」。
そこでどうするかというと、驚くべきことに左から右へハライを描くのです。
書道のお師匠さんなら、卒倒するんだろうなあ、きっと。

背広姿の塾生たちがいつになく真剣に半紙に向かっています。
何度書き足してもいいとはいっても、ほとんど黒い団子が並んでいるのもありました。

先生、楽しい話ありがとうございました。

橘右之吉先生プロフィール
1950年 東京生まれ。
1965年 橘流寄席文字家元・橘右近師匠に師事し文字の習得に励む。
1969年、正式な一門継承者として認められ「橘右之吉」の筆名を
認可される。以来、国立劇場や国立演芸場などのポスターをはじめ、
多くの筆耕に携わり、1975年に株式会社文字プロを設立。
従来の寄席、千社札、奉納額、招木、浅草鷲神社、柴又帝釈天などの
伝統的な仕事に加え、浅草観光連盟、京都市観光協会、
東都のれん会等の催事のタイトル筆耕とデザインから、書籍、CD、
イベントタイトル、「大江戸温泉物語」をはじめ企業名や
施設のロゴタイプまで多くの仕事を手がけている。
寄席文字橘会理事
株式会社文字プロ代表取締役
若手真打噺家との雑俳の会「つ花連」同人
投扇興「綾香連」同人

主な作品及び筆耕歴
国立劇場ポスター
国立演芸場ポスター
大江戸温泉物語
デニーズジャパン新業態店舗「七福・弁天庵」
柴又帝釈天
浅草鷲神社
坂東三津五郎丈襲名祝い掛け行灯
中村勘三郎丈襲名招木
平成中村座ニューヨーク公演 (2004)
平成中村座ニューヨーク公演 (2007)
平成中村座ベルリン公演 (2008)
平成中村座松本公演(2008)
赤坂大歌舞伎(2008)
平成中村座浅草奥山公演(2008) 他、多数