ー小笠原礼法〜お正月の作法ー鈴木万亀子先生 第十八回混合クラス


Text by nn
12月の赤坂和塾は、小笠原礼法。
講師は既に他のクラスでもお稽古をして頂いております鈴木万亀子先生。
何度お越し頂いてもまだまだ足りません。

鈴木万亀子先生

今までのお稽古では、「胸をはって姿勢良く生きること」
「こころを伝えるかたち」といったテーマでお話をしていただいております。
相手を大切に思う「こころ」を「かたち」にしたものが作法である
と先生はおっしゃいます。
生きていく中で、人との関わりは避けられません。
また、それが豊かな人生を送るための源泉ともなることでしょう。
お稽古では毎回、様々な「かたち」を学び、その奥にある「こころ」を知りました。
人間性を磨き、人生を豊かにするいい機会です。

今回は、以前も触れましたが改めて「お正月の作法」を。
一年の計は元旦にあり。
新たな年を気持ちよく始めるための作法を、学んでいきましょう。

今回の会場は、グランドプリンスホテル新高輪の「秀明」。
その床の間に、先生が事前にお正月飾りを用意して下さいました。

お正月飾り

写真をよく見てください。何か違和感を感じませんか。

実は、本来鏡餅がある箇所が、お米になっています。
そもそも鏡餅は、具足餅(武家餅)とも呼ばれ、室町以降、武家が甲冑の前にお餅を置いたのが始まりとか。
その前は、お米を歳神様に捧げていたそうです。
今回は、お米を。その上に橙を載せています。

ちなみに、この赤坂クラスでは昨年、民俗学者の神崎宣武先生にお越し頂き「お正月のしきたり」というテーマでお稽古をしていただいております。
そちらも合わせてご参照ください。なぜお米を捧げるのか、など神崎先生のお話が掲載されております。

話は戻りまして、小笠原流のお正月飾り。
以前のお稽古にもありますが、色や形、全てに意味があります。
小笠原流は、多くの東洋思想がそうであるように陰陽説に基づいています。
森羅万象は「陰」と「陽」で成り立つという考え方です。
世の中を、その二つで分けたとき、動きのあるものが「陽」、動きのないものは「陰」とされました。
なので、丸い形は「陽」。なぜなら動きが感じられるから。
四角は安定しているため動きません、なので「陰」です。
奇数は「陽」。偶数は「陰」。2や4はバランスがとれて、動きがないからです。
色や性別、全てが陰陽で区別され、何か一つの実態を持つとき、それが必ず陰と陽のバランスがとれた状態である必要があります。
それが一番良い状態です。

ちなみに、体つきから男性が「陽」、女性が「陰」とされます。それがバランスをとって産まれるのが子供。「陰」と「陽」どっちがいいとか悪いとかではありません。白色は「陰」です。結婚式できる白無垢は、本来は死装束でした。死ぬ覚悟で嫁ぐという意思を示すためです。でもそのあとにカラードレスを着る。これは「陽」です。そうやってバランスさせるのが良い状態なのです。

だからといって素人が陰陽説を学んで、全てを陰陽でとらえていたのでは、もはや身動きがとれません。
何をどういう風に区切るのか、という時点で無限にありそうです。
そんなことで頭を固くしていては、肝心の「こころ」が疎かになります。
ここでは、陰陽に忠実であるべきということが大切なのではなく、
人の前に出すものは、良い状態で出す。その考え方のほうが大切かと思います。
小笠原礼法では、その良い状態というのを、陰陽で定義しているのだというぐらいの解釈でいいのではないでしょうか。

ただ、せめてお正月ぐらいは、しっかりと作法に沿ってやりたいものです。
「たかだかお正月のお飾り」、「ただそういうものだから毎年飾っている」という方も多いのではないでしょうか。自分は意味もわからなかったので、飾りもしませんでした。
ただし、その奥にある考え方がわかると、相手のことを考えるということにおいて、一つ一つが大切な再認識の儀式だと実感できます。
「自分の所に神様来い」って考えだけで飾るのだと何とも虚しい。
そもそもそういう人のもとに神様は来ません。たぶん。

お辞儀や、座布団の座り方一つとっても、ただルールに捕われるのでなく、相手のことを考えること。
それが全ての背景にあります。
従って状況によって、ベストな作法は異なります。
床の間の前は普通は上座であるが、そこに相手がおらず、逆側にいた場合、そちらが上座になります。
大切なのは「かたち」ではありません。
相手のことを考えて動くと、少し優しい気持ちになれそうです。
それができる人は、神様だけじゃなくて、まわりの人にも大切にされそうですよね。

座布団についてお稽古の様子

ちなみに、正座をしていて足がしびれた際は、なんとか立ち上がり膝を曲げて、後ろに摺り足で下がっていくと治るとのこと。
実際に、実践したら治りました。凄い。

今回は、みんなで箸袋とお年玉袋も作りました。
素敵なお年玉袋でもらったら、もらう方も嬉しいですよね。
一つ一つに「こころ」がこもっています。

小笠原礼法は、武家礼法。戦いを生業とする武士の中から、相手を大切に思うことを柱とする礼法が生まれ、根付いたのは、また興味深い話です。
ともすれば殺伐とした無秩序な社会になってしまう、そんな世の中だからこそ、このように相手をおもう作法が大切にされたのでしょうか。
今の時代、世界も社会も家庭内も、違う意味で殺伐としています。
意外とシンプルなところにその原因はありそうな気もしました。

現代日本の作法の基準ともいわれている小笠原礼法。
その根本。誰に対しても、相手を大切に思う気持ち。
それは、どの世界でも通用する、普遍的な価値のある「こころ」です。
ずっと大事にしたいです。