ーお正月のしきたりー神崎宣武先生 第六回混合クラス

日時:2009年12月15日(水) P.M.7:00開塾
場所:六本木 はん居

Text by miyaben
講師は民俗学者の神崎宣武先生です。
「しきたり」、とくに正月を迎える作法について、その意味を民俗学的に解明する講義です。
毎年行っている正月行事ですが、民俗学的なアプローチから質問されると、みんな答えに窮します。今回はそんな我々が先生から教えていただいた驚きを、クイズにしてみました。
聴講した塾生はもちろん、全問正解、正月を心置きなく迎えられます、よね?

神崎宣武先生

第1問:お正月にお迎えする神様をなんと呼ぶ?

第2問:その神様は、ふだんどこにいるとされていますか?
ア天 イ山 ウ海

第3問:次のうち神様が依り憑く「依り代(よりしろ)」ではないものは?
ア門松 イ鏡餅 ウ注連縄

第4問:西日本の丸餅、東日本の四角い餅、どちらが正しい?

第5問:神様にお供えするのに欠かせない三つのもの、正しくないのは?
ア餅 イ酒 ウするめ

第6問:家庭で神様にお供えしたお酒を飲む順番は?
ア女性から イ若い人から ウお年寄りから

第7問:お年玉って、本来は何をもらうもの?

第8問:喪中で年賀の挨拶を遠慮します、って親が亡くなったときの喪中の期間は?
ア49日 イ108日 ウ翌年の正月まで

第9問:神崎先生が岐阜の山の中で見たお雑煮に入っていたものとは?
アてんこもりの塩 イてんこもりの砂糖 ウてんこもりの油揚げ

第10問:サービス問題:神社の手水舎で、柄杓に口をつけてうがいをしました。これって○?

答え
第1問:歳神様(としがみさま)。
歳徳神とも正月様とも呼ぶ。正月の行事は、神様が家庭にいらっしゃるところから考えられています。その意識が薄れた都会人には、正月行事は「?」ばっかりですね。

第2問:イ ふだんは山にいらっしゃいます。おもに先祖の霊(祖霊)が歳神様の正体。日本人は死ぬと山に御霊が行くと信じられていました。だから神様の名前がついた山がいっぱいあります。天に昇るという発想は明治以後、キリスト教からもたらされた考えだそうです。山にいる先祖の霊を歳神様として、家庭に迎えるのが、正月行事の基本です。

第3問:ウ 大切なお客様である歳神様をまず門松が依り代として宿ります。松の緑は生命力の象徴。だから門松に一緒に刺さっている竹や梅には本来的な意味はありません。門松に降りてきた歳神様は、床の間の鏡餅に宿ります。
鏡餅は神様の座布団のようなもの。一枚よりも二枚のほうが丁寧です。
注連縄は、結界を示すもので、家のなかに神様がいますよ、という合図。注連縄に神様が降りてくるわけではありませんので、要注意。

第4問:どちらも正しい。形自体に本来的な意味はありません。ただ東日本の正月は極寒なので、手で丸めただけの丸餅だと中に気泡が生じて、割れたりはがれたりしやすいそうです。そこでのし棒で伸ばして、気泡をとった「のし餅」が主流となったと考えられます。

第5問:ウ 欠かせない三つのものとは餅と酒、それにご飯です。日本人の主食が米というのはけして正しくない。米を腹一杯食べられるのは「まつり」のときだけだったそうです。だから炊いてご飯にして食べる、突いてこねて餅にする、さらに手間をかけてお酒にしてというように、貴重な食材を歳神様に供えました。
そのあと、家族は神様からのお下がりを分けて食べ、その力を得る(直会:なおらい)ことになります。お供えのお酒を飲み、餅をいただき、ご飯を食べるのです。

第6問:ウ お年寄りから 一家の長から杯を回すようにします。お年寄りがいたらお年寄りからです。神様、仏様、ご先祖様に続いて、年長者がいただくという順番なのです。これは会社の年功序列とはまったく関係がありません。
ちなみに杯は三つ重ねでしたら、ひと杯ごとにその意味を言って、自分、家族、神様に対する契約となります。
「一の杯は、新年の自分の気持ちをちゃんと確かめる」
「二の杯は、家族全員が仲良くする気持ちを確かめる」
「三の杯は、めでたく歳神様に守って一年を過ごす気持ちを確かめる」

第7問:お年玉は「歳神様の御霊」を縮めたもの。だから歳神様が依り憑いた餅を分けて食べることが、お年玉の原初的風景でした。
神崎先生は、お孫さんたちに渡すお年玉袋には、クリスマスカードのようにメッセージを書いた紙を入れるそうです。厚みが出て具合がいいそうです(笑)。

第8問:ア 一親等の喪が49日なら、二親等はその半分、三親等は三分の一で喪が明けます。だから今年親族が亡くなったからといって、必ずしも正月を迎えるのを遠慮する必要はないそうです。喪中はがきという現象が現れたのはつい最近のことだそうです。

第9問:てんこもりの砂糖が入ったお雑煮。 お雑煮は、お惣煮のこと。その土地、その季節の一番めでたい、貴重なものをいただくもの。だから全国にいろいろなお雑煮があります。砂糖入りの雑煮も、貴重な食材をおめでたい正月に食べるということで、けして本来の意味から、ずれているわけではありません。

第10問:初詣で、和塾の塾生はけしてこれをやってはいけません。手水鉢で左手、右手を浸し、掌に受けてうがいするのが正しいやり方。禊ぎを簡単にしたものですから、厳粛な気持ちでやりましょう。けして柄杓に口をつけてはいけません。
相撲の力水は、御輿の担ぎ手が水を飲むようなもので、これと一緒に語ってはいけません。

どうでしたか?
正しい正月を迎えられそうですか?
神崎先生の博覧強記に驚きつつ、笑いながら、あっという間の二時間でした。
先生、ありがとうございました。
塾生のみなさん、それではよいお年をお迎えください。

しきたりの日本文化 (角川ソフィア文庫)

神崎 宣武 / 角川学芸出版

江戸の旅文化 (岩波新書)

神崎 宣武 / 岩波書店