『長唄三味線』講師:鳥羽屋里夕 先生

日時:2013年8月6日(火)19:00開塾
会場:グランドプリンスホテル新高輪 秀明
講師:鳥羽屋 里夕(とばや りせき)先生

♪テーーン、テーーン、テンツン、テン
テンテンテンチン、テンテントン
テンテンテンチン、テンテントン
テーーン、テーーン、テンツン、テン♪(『ほたる来い』)

三本の糸を張り、巧みに音を奏でるお三味線。
お三味線には、細棹、中棹、太棹があり、義太夫、常磐津、清元など、音楽によって使う種類が異なります。今回は歌舞伎音楽のひとつでもある長唄三味線の体験お稽古でした。(長唄は細棹を使います)
シンプルな構造の楽器ながら、表現出来る無限の音の組合せに一同たじたじ。されど興味津々です。

<三味線-しゃみせん-の構造を知る>

楽器本体は“天神(糸倉)”、“棹(ネック)”、“胴(ボディ)”から成り、棹は上棹、中棹、下棹の3つに分割(このような棹を「三つ折れ」という)されます。主に収納や持ち運びの便のため、また湿気などで棹に狂いが生じにくくするためなのだとか。(今回、特別に5つに分割できるものもお持ちくださいました。)

胴は全て花林や桑、ケヤキから作られます。さらに、先生のお三味線の胴の内側には“綾杉”という細かな模様が鑿(のみ)で一面に彫り込まれていました。この構造が響きを良くしています。
細棹の胴の部分には猫の皮(練習用は犬皮(けんぴ)、犬の皮を使っています)が張られ、棹には、指の爪と腹でしっかり弦をおさえるために硬くて良質な(そして高価な)紅木(こうぎ)が使われています。糸(弦)は三本で、絹製。太い方から順に“一の糸”“二の糸”“三の糸”。象牙の駒・象牙製の撥(練習用の撥は木製)を用いることも合わせて教えてくださいました。

<長唄の音色を、四季で・歌舞伎で 聴く>

「日本の音楽表現は、四季ととても関係が深いんですよ」と里夕先生。

実際に“合方(あいかた)”という音楽的に意味を持たせた唄を伴わない、三味線だけで演奏される節を弾いてくださいました。
春はうららかに花見、桜並木の下でほころぶ花の色とりどりに酔いしれ(おそらく花見踊りの合方)、一転、隅田川での舟遊びと佃の合方、お祭り気分にさわぎと夏の風情。続いて秋色種の虫の合方、色草を足許耳元で楽しみ、冬の雪の合方(しんしんと降る雪と時々木の枝々に積もった雪が落ちる表す太鼓の表現 ♪どん…どん…、どん…どん…、がちゃ、がさがさ……♪という音に合わせて舞台では演奏される)と順繰りに。

見えない気配をも音楽化し、情緒・風情を聴覚だけでなく、視覚・触覚も同時に刺激され、想像をかきたてられる体験をしました。洋楽器から聴きとれる音楽とは異なるこの感覚はトリップとでも云えそうな。

そして歌舞伎音楽としての聴き所、『勧進帳』の滝流しの合方を鑑賞。
(体力がかなり必要とされることから最近は歌舞伎公演でもほとんどカットされてしまうのだそうです。)
ハイスピードな合方は途中からさらにスピードを上げ、絶妙な消し。
その直後、まさに滝が流れ落ちるような音
——これは凄まじい!!
ハイテンポ・ハイスピードのままイッキに 〽虎の尾を覆み毒蛇の口を遁れたる心地して〜まで繋がります。
この終わりにかけた旋律も、聴いているだけでスカッっと爽快感!!

<いざ、奏でる>

「はい、力は入れないでピンポン球をひとつ持つように。」
「三本指で撥の重心を支えます。」

鑑賞に続いて、右手に撥、右足に胴、左手に棹を持ち、演奏体験。
うぅ、思うように撥が持てない、
テーーーン、テーーーん、テケ、すかっ…、ツ、トン、テン…
弦に当たらない。先生のような音は勿論出ない、

撥の持ち方・三味線の構え方、弾き方を学びます。お三味線を持たない間はエア三味線。学んだばかりのお三味線を奏でる姿勢で“口三味線(くちじゃみせん)”を練習。弦によって、またそれぞれのおさえ位置によってつけられた口まね音“テン”“トン”“ツン”で『ほたる来い』を唄いながら、弾く格好をとって体に覚えさせます。なるほど、なるほど…。すっかりイメージの中で弾けるようになると、さぁ交代。
お三味線を手にして、…はて“テン”はどの弦だったかしら?
日本のお稽古の合理に戸惑う和文化離れの塾生一同はトライ、エラー、またトライの繰り返し。
その間、里夕先生は各々のお席までまわって手取り足取り、手ほどきくださいました。
そして最後は無事、みなさん弾けるように。

体験を終えて、みなさん楽譜も見ずにこちらを向いて演奏されていた先生の滝流しを回想されたことでしょう。
鮮やかな撥捌きとその音色、技のすごさに触れることのできた充実のひとときでした。
『勧進帳』は歌舞伎の十八番。次の鑑賞は長唄三味線にも注目です。

みなさま、いかがでしたか。