歌舞伎襲名の謎を紐解く

2018年1月2月、歌舞伎座では高麗屋3代襲名披露興行が行われます。
親子なのに、なぜ松本と市川と2つの名字??歌舞伎襲名の謎を紐解きます。

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日時:2017年12月19日(火) P.M.7:00開塾
場所:来迎山 道往時
講師:演劇評論家・日本文化研究家 中村義裕
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今年最後のお稽古は、松本幸四郎さん・市川染五郎さんとも交流がある中村先生より、歌舞伎の襲名についてのお話。

沢山の講座でお話される中村先生。よく歌舞伎初心者の方に「歌舞伎は難しい、よくわからない」といわれるそうです。そんな時は「なぜわかろうとするのです。あなたが演じるわけではないのですから、見ながら楽しんでいけばよいんですよ」と。少年の頃より芝居が好きで現在までに6000本を超える芝居をご覧になっている先生。見ていけばわかるから大丈夫、そんな敷居を低くしてくれるお話から始まりました。

まずは今回の主題「襲名」について。

高麗屋のお名前は
松本金太郎

市川染五郎

松本幸四郎

真ん中が市川ですね。

歌舞伎での歴史が古く、主役を演じる家柄の成田屋。市川團十郎・市川海老蔵の成田家は市川家宗家とも江戸歌舞伎宗家とも言われています。左記の理由から格が高いとされ、跡継ぎが不在の時は高麗屋から養子に行く。そのような決まり事があるそうです。そのために高麗屋中堅どころの名字が「市川」となっているわけです。松本幸四郎という名は市川團十郎の高弟にあたります。

高麗屋襲名は37年ぶり、当時も同じく3代同時襲名でした。3代同時に襲名できるというのは、そう簡単なことではありません。3代とも同じ歌舞伎役者という職業についており、それぞれが次の名前を名乗って良い状態でいることが大前提です。

襲名とは、単に名前が変わるというわけではなく、自分の立ち位置が変わる、すなわち演じる役が変わるのですね。中堅所は、トップランナーへの仲間入りをするわけです。本人の重責はすごいものです。

幸四郎さんは命をもつなぐ襲名と言っています。

2018年1月は歌舞伎座、新橋演舞場、浅草公会堂、国立劇場、4つの小屋で歌舞伎が開催されます。大繁盛!と思いきや、中村先生は今歌舞伎は危機にあるとおっしゃいます。なぜかというと、女役が少ない。女が主役の「鏡山」「摂州合邦辻」など演じることが難しくなってきているのだとか。今やっておかないとみんなが忘れてしまい次の世代に引き継げない演目も数多くあるそうです。

最後に、隈取を見せていただきました。

これは役者が全力で汗だくで演じきり、かつらを衣装脱いだ瞬間に、絹布を当てられ20秒間ほど息もできない状態で写し取ったものです。顔の筋肉が動いてしまうときれいに取れないため、息を止めている。そこをまるで版画のように顔をこすられる。役者によっては嫌がる人も多く、1日1枚しかとれない貴重な隈取です。

車引きの梅王丸の隈取。赤い隈をとる代表的な役。染五郎が29年前に初役で演じた時の物。赤い隈は正義の味方が怒って、動脈が膨張した状態をデフォルメしたお化粧。

一方、茶色い隈取。茶色というのはこの世のものではないという証。蜘蛛の精だとか、何かが変化(へんげ)したもの。信濃の戸隠山の更科姫というお姫様が、後に鬼女として正体を表した時の隈。今の雀右衛門のお父さんにあたる4代目中村雀右衛門さんが(92歳までご存命)70代後半で演じた時に、こういうことを自分の役柄としてやるのはあまりないことなのでということで、雀右衛門さんがくださったものだそうです。

命をもつなぐ、歌舞伎の襲名。
その心意気が詰まった来年の新春歌舞伎、観に行ってみたいと思います。

中村先生ありがとうございました。