日本文化市場論 第三話

→第一話「往復書簡の趣旨」
→第二話「閉じられた衰退市場」

・第二話。いきなり厳しい視点からの現状分析でしたね。
日本文化は「閉じられた市場」なのではないか、という指摘。そのため「コンテンツの非一般性は放置され、新規顧客の満足など考慮されることがない」のだと。
たき氏のコメントでは、こうした現況をポジティブにとらえた視点も。エヴァや冬ソナで見られたT型消費の一例とも言えますね。ひょっとすると、このあたりにも活性のヒントがあるのかもしれません。

さて今回は、前信を受けたトール君による返書。贔屓の引き倒しマーケティング論です。

日本文化について考えてみる。第三話

前略 こうぢ殿

贔屓の引き倒し、という諺がありますが、そこまでではないにせよ、閉じた生態系の中で送り手と受け手の関係性が濃くなって排他的になり、共倒れで衰退してゆく、という図式は、案外よく見られる構造だと思います。
まあこれが地元の居酒屋で、常連客が濃すぎて一見客が入れない、というような話であれば、その店が店舗の大幅な拡大でも目論まない限り問題はないでしょう。むしろ大手居酒屋チェーン等の進出に対抗する、有効な戦略であるとも言えます。
実際そうして、何代にもわたってのれんを守り続けている名店も数多くありますしね。
ただし、より一般への広がりを目指すのであれば、ご指摘の通り、この状態は危険な兆候を示していると言えるのかもしれません。
ファンの心理は複雑なもので、自分が愛するものを抱え込み、抱え込まれたがる心理と、その価値をより多くの人とシェアしたがる心理、関係性を荒らす因子を排除したがる心理、などが混在しています。そこでは常に、既存ファンと新規客=常連と新参者とのうまいバランスでの同居が模索されているのだと思います。

閉鎖性の弊害というのは中に居る者には見えにくいという点が厄介で、マスマーケティングにおいては注意が必要なものです。
商品ブランドでも、老舗のものになると、熱心なファンとメーカーサイドとの間に強力な絆が生まれることがあります。
顧客とのそうした心理的な関係はブランドにとっては得難い財産であり、ブランドマーケティングが目指すべき目標でもあるわけですが、一方で、メーカー側がそうした「古株のお得意様」となれあいになったり、顔色をうかがって意見を聞きすぎるあまり、新規客の取り込みがおろそかになるケースが時折見られます。

中には、社員や経営陣自身がそのブランドの熱心なファンで、過保護になったり独善的になったりという「親バカ」状態に陥る例も見られます。その結果、時代の変化や競合の攻撃にうまく対応できず、一気に衰退してしまうということが起こります。
そして衰退局面では、外界の厳しさに比べて古参のファンとの関係は心地よく、気休めに肩を寄せ合う安心感に甘えがちになる
これはかなり厄介な、縮小スパイラルのパターンです。

かつて圧倒的なシェアを誇っていた日本No.1のビールメーカーKは、代表商品Lに対する社内の暗黙の「保護政策」で力を失った挙げ句、競合A社の大ヒット商品Sに対抗して独善的なコンセプト改定を強行した結果、ファンの離反を呼んで自滅しました。
その当時のK社の戦略判断は、僕らが外から見ていても首をひねるようなことばかりで、主力商品Lに対する判断以外にも「全方位戦略」と称して、自前のポジショニングマップを自ら埋める形で新商品を乱発するなど、明らかに客観性を見失った施策を展開していました。「客商売で自分しか見えなくなるというのは怖いことだなあ」と、つくづく思ったものです。

同じような事例は他にもあります。フィルムカメラ時代に圧倒的な商品力で非常に強固な顧客基盤を築いていたN社が、プロユーザーを見すぎたあまり、オートフォーカス一眼レフで競合の後塵を拝し、さらにデジタル化で決定的に出遅れて背水の陣に立たされたことは有名です。
このブランドには世界中に強烈な信奉者がいて、ファン相互や社員との熱い交流がある一方、ブランドが市場構造の変化の中で勝ち残って行くためには、プロ志向ユーザーではない、一般の新規顧客の獲得が必須でした。

この両社はその後どうなったか?
ビールのK社は、主力商品Lに、「自ら打ち勝つべし」という号令のもと、骨太な新商品Iを開発し、じっくり腰を据えて新たな主力商品に育てる一方、積極的に新ジャンル商品へも投資して、新しいポートフォリオを築き、トップシェアを奪回しています。
カメラのN社は、安易な競合対抗策をいったん抑え、新しいジャンルであるデジタル一眼レフにおいて、お家芸の光楽技術開発力の本領を発揮、革命的なフラッグシップ商品の開発を成功させ、市場の勢力図を塗り替えることに成功しました。

では、ここから得られる教訓とは?
根強いファンを持つ老舗ブランドが、時代の大きな変化に直面した時にとるべき行動とは、その変化に表面的に合わせようと、我を忘れた奇抜な策を展開するのではなく、かと言ってただかたくなにそれまでのやり方に閉じこもるのでもなく、自らの価値とやるべきことの心髄を見極めて、守るべき価値は守りつつ、その価値を時代に応じた新しい様式で発現させる挑戦をすべきだということです。

それによって、その本来の魂を損なうことなく、新しい時代のユーザーと新しい関係性を築くことを目指すのです。

とまあ、結果事例をもとに分析的に語るのは楽ですが、では実際にそうした「守り」と「攻め」のバランスをどうとってゆくか、今日的に有効な「攻め」の手はどう打てばよいか、ということになると、確実なマニュアルがあるわけではありません。
古参のファンと新規客とのバランスにしても、金魚鉢の水を換えるようには簡単に行きません。
商品マーケティングでは、リサーチによって顧客ニーズの変化やコンセプトへの受容性などを定量的に分析して戦略を構築して行くという手段がありますが、ここはやはり肌感覚で頃合いをはかりつつ、試行錯誤を重ねてゆくべきなのかもしれませんね。

草々

※次回はこうぢ君の返信。1週間以内に返すがルールとなってます。お楽しみに。
※ご意見ご感想お寄せください。

→第四話

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