ー源氏物語絵巻~「歴史的価値」はあるー名児耶明先生 第三十六回和塾

日時:2007年3月13日(火) P.M.7:00開塾
場所:六本木 ロンドンギャラリー

源氏物語絵巻は、平安時代中期、十一世紀初頭に紫式部が著した「」をその約百年ほど後に当時の宮廷において絵画化した最古の大和絵・源氏絵です。現存するのは全部で十九面。徳川美術館に十四面、五島美術館に四面があります。

第三十六回の和塾お稽古は、その五島美術館から名児耶明学芸部長をお招きして、千年前の王朝人の世界を覗き見ることとなりました。

名児耶明先生

絵巻の特色のひとつは「吹抜屋台(ふきぬきやたい)」という画法。これは、家屋の屋根と天井を取り払い空中から見下ろすように室内を描く手法です。本来見えない角度から王朝人たちの室内を眺める。まさに「覗き見」感覚。絵巻が描かれ、それが彼らの間で回し読みされた時、物語の内容と相まって醸成された気分はどのようなものだったのか。ま、ちょっとした変態趣味だったのかもしれません。
もうひとつの特色は「引目鉤鼻(ひきめかぎばな)」。絵巻に登場する人物は皆、まっすぐな目とくの字鈎型の鼻で描かれています。背景や衣装の写実的な画法と、この人の顔の画法に整合性はない。おかげで登場人物はどれも同じ顔となり、誰が誰やらわからない。何か意図があるのでしょうか?

名児耶先生によると、顔が皆同じ造形・同じ表情なのは、その方が読者の感情移入を引き出しやすいからではないか、とのこと。なるほどそんなものか、とも思いますが、では登場人物の個性をしっかり描き分けていたら感情移入できないのか、というとそれも疑問です。いずれにせよ、この絵巻にはさまざまな謎めいた表現がちりばめられているらしい。そもそも誰がこの絵巻を描いたのか。実のところそれすらもよく分かっていないのが実情のようです。

ところで、平成十二年(2000年)にほとんど意味もなく発行され、今やほとんど見かけることもなくなった二千円札の裏面には、この源氏物語絵巻がデザインとして採用されています。五島美術館蔵の国宝。「鈴虫一」の詞書と「鈴虫二」の絵です。世界最古の長編物語である源氏物語を誇るべき作品とし、国宝でもあるその絵巻の一部をお札に採用したのでしょう。五千円札の亡霊のような肖像画よりはよっぽど良いけれど、他に採用すべき絵はなかったのかなぁ、とも思います。

二千円札の裏面

今回のお稽古では、復元された絵巻に関するお話しを聞くことも出来ました。この平成復元絵巻は、六年にわたる大事業で平成十七年秋に完結。あらゆる科学的データをもとに、できうる限り原本と同一素材・同一技法で製作するという基本理念のもとに模写を実施したもの。長年月の劣化により肉眼では確認不能となった形状や文様なども拡大写真や可視域蛍光撮影による特殊な写真によって読み込み、彩色材料も蛍光X線分析装置を用いて特定。原本表面の顕微鏡観察によるデータに基づいて作成された料紙を使用して描き込まれたものです。
つまりこの復元絵巻は、現在考えられる限りの技術を総動員し六年をかけて完成させた、平安中期の貴人たちが見た絵巻の真の姿であろうということ。

復元された絵巻「御法」

お稽古では、「よみがえる源氏物語絵巻」のカタログでその復元絵を拝見したのですが、塾生諸氏の感想はいかがだったのでしょう。王朝人の見事な美意識。四季の自然が織りなす多才な表情。研ぎすまされた感性による絵画表現・・・。プロの評価は概してこうした美辞麗句に偏る傾向にありますが、モノ知らぬブログ筆者の感想は「なんだぁ〜、これ!」てなところ。これ本当に価値ある日本の芸術作品なんですかぁ?  裸の王様を見た子供のような心持ちでもう一度よく眺めるに、まずその構成がいかにも浅薄であります。画面の中の人物その他の配置を良く吟味して決めたとはとても思えない。柏木も横笛も竹河も画面構成意味不明。素描の技術も稚拙です。吹抜屋台もいいけれど随所で線が歪んでいる。人物デッサンは子供の絵。引目鉤鼻も、読者の感情移入を狙って用いた技法というより、たんに絵がへたくそで顔を描き分けられなかったためではと思ってしまいます。そして何よりその色彩感覚。美術館に展示されている作品でここまで感動の乏しい配色も珍しい。鮮度も深度も情動もなし。

「夕霧」・・・筆箱歪んでます

「鈴虫二」・・・レイアウトの意図不明

ちょっと言い過ぎましたかね。でもやはりここで筆者は再確認したい。古い創造物には「歴史的価値」が確かにあるのですが、それと「芸術的価値」は別ものなんですね。源氏物語絵巻は、その歴史的価値においては疑問の余地はないのでしょうが、芸術的価値については疑問がいっぱいです。六年の歳月を費やした見事な復元によってそれが露見するというのも複雑な状況ですが・・・。  ひょっとすると、全巻復元なんて野暮なことやらなきゃ良かったのかもしれません。ご苦労された多くの方々には申し訳ない暴論ですが。

いつもはお稽古の報告を軸とするブログですが、今回はかなり脱線。特に後半はブログ子の勝手な思いであること、お断りしておきます。

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